コロナ禍における医療従事者の行動指針

コロナ禍における医療従事者の行動指針

大学病院でクラスター発生

早いもので2020年も後半に入り、新型コロナウイルスの感染状況も予断を許さないものになってきました。

そんな中で、私が非常に気になったニュースがこちら。

病院側はこれを受け、

  • 新規患者(外来・入院)の受け入れ中止
  • 救急外来の受け入れ中止
  • 待機手術の延期

以上の対応を行い、さらに病院スタッフと患者、出入業者を含めた約2,000人を対象としたPCR検査を行うとしています。

なんとも大ごとになってきました。

さらにまずいことに、大阪市内のカラオケ店や飲食店で遊んでいた際に感染したことと、うち1人が発熱後も病棟勤務していたことです。

案の定、ネット上では共感する意見もありますが、大半が批判的です。

「マジかよ!?」

「同じ医療従事者として恥ずかしい」

「医療人としての自覚がないなら辞めちまえ」

「病院はちゃんと指導してたのかよ」

「意識の低さにびっくりだわ」

等々。

私自身、今回の事件に対しては憤りを感じましたが、同じ医療従事者として他人事で片づけてはならないと思うのです。

そこで、特に医療や介護にたずさわる人を対象に、新型コロナがもたらすリスクについての私の分析を述べていきたいと思います。

感染した看護師にコロナに対する油断はあったのか?

悩む

今回、感染した看護師らが大阪市内で夜通しで会食やカラオケをしていたのは6月27日から28日にかけてです。

6月27日時点の奈良県での新型コロナ新規感染者数はゼロで、しかも5月27日以降の1ヶ月間、奈良県で新たな感染者数はいませんでした。

大阪府はゼロではありませんでしたが、1ヶ月以上もの間、ひと桁で推移していました。

この状況で、しばらくは感染の危機はほとんどないだろう、と考えることは無理からぬことだと思います。

私自身、「当面は安心していいのでは?」とさえ思っていました。

だからといって、私は看護師らをフォローしているつもりはありません。

彼女らがクラスターの原因を作った6月末の状況を再確認し、世間が指摘するほどには彼女らの脳ミソのタガがゆるくはなかったのでないかといいたいんです。

──ですが。

そこまで踏まえたとしても、彼女らが取った行動は、社会的立場とリスク管理の観点に基づいていえば、思慮に欠けたものだといわざるを得ないのです。

コロナ禍におけるリスクを分析しよう

分析

思慮に欠けた行動となぜ断定するのか──。

まずは件の看護師らが取った行動と立場から、リスクを分析評価しましょう。

以下の図は、『リスク発生確率・影響度マトリクス』というものですが、リスクの発生する確率と影響度から、リスクの重篤度を評価する指標です。

まず彼らが大阪市内での行動で、特にカラオケというのは当初からクラスターの起こりやすい施設といわれていました。

さらに感染したうちの1人が発症してなお病棟で業務にあたっていました。

以上を踏まえ、リスクの発生確率をと判定します。

次に影響度です。

近畿大学医学部附属奈良病院は、がんや難病をはじめ、心臓外科、脳神経外科、小児科、緩和ケアの他を診療科があり、518床のベッド数を誇る大病院で、かかっている患者も大半が重度の方であり、そこでコロナによるクラスターが発生した場合、患者が重症化する確率は非常に高いと考えられます。

感染しなかった患者も持病の治療を受けられないリスクを負いますが、タダのリスクではありません。

そこは大学病院、高度医療施設であり、ただおしゃべりをして湿布と鎮痛剤をもらいに来るような患者はいません。

また奈良県に4か所しかない第3次救急医療を行っていることを考えると、救急外来の閉鎖による県内の影響度も計り知れません。

というわけで、影響度は文句なしででしょう。

つまり、図からみて、確率3と影響度3の『超高リスクMax』と判定されるわけで、絶対に自らの行動で召喚してはいけないリヴァイアサン級のリスクなんです。

防止すべきリスクを未然に想定しよう

前述のマトリクスは、リスクを防止する優先度を測るためのもの。

我々医療従事者は、常に最悪を想定して、それを回避しなければなりません。

私なりに想定した危機は以下のとおりです。

医療従事者が感染源となることで引きおこされるリスク

  • 職員に対する外部からの差別的待遇
  • 職員と患者の、不安からくるストレス
  • 職員と患者とその家族へのクラスター(集団感染)発生
  • 周辺地域へのオーバーシュート(爆発的感染)発生
  • 感染した人の重症化および死亡
  • 重症患者、死亡者に対する損害賠償
  • 病院の業務停止による収益の悪化
  • 地域の中核病院としての機能不全
  • 他の症例患者の治療の遅延
  • 地域の救急システムの機能低下
  • 医療機関としての信頼の失墜
  • 感染源のスタッフとその家族に対する社会的制裁

少なくとも医療現場で働く方であれば、このリストの大半があてはまると思いますが、どうですか?

自分の行動がこれらのリスクを引き起こすと想像しただけでも、変な汗が出てきませんか?

私も5月後半にコロナが落ち着き、自粛が緩和された時は、仕事からの帰りがけに一杯ひっかけたい誘惑と、かなり闘ったものですが、得られる快楽に比べて、こうむるであろう損害が大きすぎるため、世の中が通常運転になってからも、自分が生活サイクルを元どおりにもどす勇気がありませんでした。

ことコロナの場合は、周りと同じことをしていても、自分だけがドツボを踏む可能性があることを、絶対に忘れてはいけません。

ネット民による社会的制裁の怖さ

ネット検索

さて、前述のリスクのリストの最後に、騒ぎを起こした本人と家族に対する社会的制裁と書きましたが、具体的にいえばそれは『ネット上における炎上』がほとんどで、ツイッターでワード検索すれば、無数に批判がでてきます。

当人たちは恐怖のなかで毎日を過ごしていることでしょう。なにしろ職場はすでにニュースを通して知れ渡っているわけですから。

いつ個人情報が明るみに出るか、気が気でないでしょう。

このコロナ禍では医療従事者がリスペクトされていますが、ヘマをした時の反動がものすごい。

たしかに今回、看護師たちが取った行動によって多数の人々に多大な迷惑を与えました。

しかし彼女らを裁くのは、ネット民の役割では決してありません。

今回の彼女らの行動が、悪意に基づいたものであれば別ですが、一時の油断であれば、今回の失敗を今後の働きで埋め合わせる機会があってもいいのでは、と考えるわけです。

感染者の誰かが亡くなれば、話は変わってきますが。

また、ネット上でのリンチによって、現在不足している看護師の社会的抹殺をはかるのは得策ではないと思います。

かえりみて、我々もいつ感染者にならないと断言できない以上、常に「かもしれない」の心構えで日々の行動を慎重に取りましょう。

油断の挙句、次につるし上げられるのは、あなたかもしれませんよ。

いずれこの災厄も、終わりがやってきます。

それまではお互い元気で乗り切りましょうね!


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