京都の安楽死事件で積極的安楽死の議論は再燃するか?

医師らによるALS患者への嘱託殺人事件

令和2年7月23日、京都府の筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の女性を、本人からSNS を通して依頼を受けた医師2人が、薬物により殺害したとして、嘱託殺人の容疑で逮捕されるという事件がありました。
正直私は、積極的安楽死が原則的に認められていないこの日本において、家族はともかく、医師による『安楽死』という名の嘱託殺人は起こらないだろうと思っていただけに、今回の事件の発生は意外でした。
しかし同時に、以前にもブログで安楽死について書いていた私は、この事件が安楽死についての議論の再燃につながるかもしれない、とも思いましたので、記事にしたいと思います。。
京都嘱託殺人事件の特異性

難病やガンの末期患者に対する嘱託殺人は、過去にもありましたが、容疑を受けて逮捕されるのは、家族や主治医などの被害者と密接なかかわりをもつ人間でした。
しかし今回逮捕されたのは、主治医ではなく、しかも東京と仙台の医師が2人であることに、今までの事件にない違和感を抱きました。
そして時間が経過するうちに、次のような情報が新たに入ってきます
- 手を下した医師らが被害者からSNSで依頼を受け、100万円の報酬を受領していた
- 容疑者のひとりが優勢思想の持ち主である
ということが明るみになり、これは今までのような安楽死の議論には発展しにくいのではないか、と思うようになりました。
京都の嘱託殺人事件は、やまゆり園での事件と同義なのか。
──そして悪い予感は的中しました。
ああ、やはりそうなるか、という思いです。
今回の事件を引き起こした容疑者を擁護することは、やまゆり園での植松死刑囚を肯定することであると言わんばかりの論調です。
優生思想
身体的、精神的に秀でた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想。
Wiktionaryより
優生思想といえば、ナチスのホロコーストだけでなく、日本でも平成9年(!)まで施行されていた「優生保護法」により、精神疾患やハンセン病患者の断種を行ってきた黒歴史があり、今でもその言葉にアレルギー反応を示す人は少なくないのです。
こうなっては、大阪市長の松井一郎さんが尊厳死についての国会での議論をツイッターで促していましたが、ヘタをすれば逆効果になりかねません。
「生きる権利」と「死ぬ権利」、どちらが尊重されるべきか

同じALSである国会議員、れいわ新選組の舩後議員が今回の事件を受け、安楽死について、以下のコメントを述べました。
報道を受け、インターネット上などで、「自分だったら同じように考える」「安楽死を法的に認めてほしい」「苦しみながら生かされるのは本当につらいと思う」というような反応が出ていますが、人工呼吸器をつけ、ALSという進行性難病とともに生きている当事者の立場から、強い懸念を抱いております。なぜなら、こうした考え方が、難病患者や重度障害者に「生きたい」と言いにくくさせ、当事者を生きづらくさせる社会的圧力が形成していくことを危惧するからです。(中略)「死ぬ権利」よりも、「生きる権利」を守る社会にしていくことが、何よりも大切です。どんなに障害が重くても、重篤な病でも、自らの人生を生きたいと思える社会をつくることが、ALSの国会議員としての私の使命と確信しています。
7月23日の本人のコメントより抜粋
確かに積極的安楽死の過度な肯定化が、
「安楽死があるのに、なぜそれを選択しないの?」
という風潮を生み出すのではないかという危惧はわかります。
今はどうでしょうか。
病状の回復の見込みがなく、先行きを絶望した人が、「死にたい」と言いにくくさせている圧力の存在を、否定できないのではないでしょうか。
ネット上では否定派と肯定派が活発に議論していますが、どちらが正しいのか、いまだ結論には至っていないのが現状です。
でもちょっと冷静に考えてみてください。
なぜいつも、「どちらが善でどちらが悪か」という話になるんでしょうか。
そんな論争に決着がつくはずがなく、であればその議論自体が不毛なのではないでしょうか。
私にいわせれば、それぞれの考え方に正解も不正解もないんです。
話し合われるべきは、「当の本人が人生の幕引きの形を選択できるような世の中にできるかどうか」だと思います。
結論

最近、よく思うんです。
日本人って、議論がヘタクソだなあって。
持論を展開するだけでなく、反対意見に対してすぐにマウントを取ろうとする。
これじゃ折り合わないどころか、結論が不透明になってしまう。
まあ死を肯定することへの忌避が根底にあるからなのかもしれませんが。
でも最近では『終活』という言葉にあるように、生きることと死ぬことを切り離すことは絶対にできないんです。
思考停止せず、この問題について一歩前進できればと願います。
最後に、今回亡くなられたALS患者の女性のご冥福をお祈りします──。

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