その歩行訓練、正しいですか?

移動動作──
入浴やトイレなど、日常生活での活動の橋渡しをしたり、通勤や買い物などの参加のために不可欠な動作です。
と同時に、骨折などの受傷リスクも高いため、理学療法では相当の時間を費やします。
一般的にもリハビリといえば、『歩行訓練』が連想されるのではないでしょうか?
ドラマやドキュメンタリー番組などでもリハビリの花形的な扱いですしね。
しかし、実際に行われている歩行訓練は、はたして生活の自立のための『手段』として行われているんでしょうか。
歩行訓練はセラピストの自己満足のためにあるのではない!
前述しましたが、地味な物理療法や徒手療法に比べて歩行訓練って、ザ・理学療法といった感じですよね。
ついつい「俺、今めっちゃカッコイイ!」と自己陶酔しがちですが、自分を見失ってはいけません。
患者さんはあなたの自己満足のダシではありませんからね。
まず、現在行っている歩行訓練の目的が自分で確固としたものでなければいけません。
言っておきますが、『歩行動作が可能となるため』というのは目的にはなっていません。
ドヤ顔でそんなことを言われても、私なら「ほ~ん。──で?」と答えるでしょうね。
問題はその人の生活のどういう局面で歩行が可能とならなければいけないのか、ということです。
導線上に段差や敷居などの建具があるのかないのか、手すりや歩行補助具は使用可能なのか、介助が必要な場合は介助者がいるのか等々の要素を配慮しながら、日常で必要となる歩行の『質量』を設定して現状を近づけていく──
後述しますが、歩行の『質量』はものすごく多様に満ちているんです。
単なる平地歩行にいつまでもこだわっている場合ではありません。
専門性を活かした訓練であるか?
患者さんが理学療法士と肩を並べて和気あいあいと話をしながら歩行訓練をする──
なかなかほほえましい光景です。
しかしセラピストのみなさん、胸に手を当てて自問してください。
「これって他の誰でもできる訓練じゃね?」──と。
もし理学療法士であるあなたしかできないのであれば、失礼なことを申し上げました、訂正して謝罪します。
でも誰がやっても同じなのであれば?
わざわざ理学療法士が高い単価で誰にでもできることをする意味があるんでしょうか?
自分が『医療費』という予算を消費している自覚を少しはしたほうがいいと思いますよ。
機能訓練の原則に立ち戻ろう。
過負荷の法則
まず、セラピストであるあなたの念頭に「過負荷の原則」が念頭にありますか?
これがない方は、たまたま歩行訓練がその患者さんにマッチしているかもしれませんが、少なくとも漫然とやっていることには変わりがありません。
例えば、普段から自主トレーニングで屋外歩行訓練をされている患者さんに対して、同じような歩行訓練は絶対と言っていいほど行いません。
理由はひとつ。
基本的にはやっても効果を見込めないからです。
例外があるとすれば、現状維持がそもそもの目的である場合でしょうか。
歩行スピード、バランス、持久性──
各々の要素で「普段以上の」負荷をかけなければ、何らかのアップグレードは見込めないんです。
ですから、患者さんの現時点でのスペックを正確に把握するのは最低限必要です。
実用性獲得のために──
歩行に限らずすべての動作に対するリハビリの至上の目標は『実用性の獲得』です。
そんなこと今さら誰かに言われなくても、と思われると思います。
しかし「実用性って、何をもって獲得したと判断しますか?」と訊かれて明確に答えられますか?
そこが感覚的だと、退院直後に転倒受傷して再入院なんてことになりかねません。
下図は実用性を構成する要素を表したものですが、実用的な動作とは、機能性、安定性、安全性、安楽性、適応性すべてを満たした状態をいいます。

それでは各要素を説明していきましょう──。
機能性
一定の条件下でならその動作を行うことができることをいいます。
平地に限定すれば歩けたり、数回失敗しても何回めかに立ち上がれたりしても機能性「あり」と判断します。
安定性
動作の再現性、つまり何回やってもミスなく動作ができる状態を意味します。
『安定』性というネーミングから、
安定性=バランス性
と誤解されやすい(学校の教員ですら誤解している人がいるくらい)ですが、寝返り動作にも『安定性』はありますからね。
安全性
その名の通り、危険なく動作をやりとげることができるかを表します。
例えば、動作を行なっている最中に注意が他にそがれてしまうようなケースでは安全性は低下します。
安楽性
心身に苦痛なく動作を行うことができるかどうか、つまり能力の剰余を意味しますが、私は持久性も含めて安楽性という解釈をしています。
適応性
条件や環境に応じて動作が行えることを指します。
自宅や社会復帰のためには絶対に欠かせない要因となります。
『歩く』ことの多様性
前述したとおり、歩行は日常生活をつなぐためには不可欠な動作です。
ただし病院の廊下や訓練室でただ歩くだけの動作は、難易度も日常での頻度も最も低いんです。
難易度・頻度が最も低いということは、実用性が低いという事ですので、どんどん難易度を上げる必要があるわけです。
歩行の難易度を左右するのは、下図の三つの要素。

まず空間の動きとは、周囲の環境に一定の動きがあるかどうかの事で、乗物やエスカレーターに乗っている場合などは動的な空間になります。
次に操作の有無とは、ドアの開閉や改札口でのICカードのタッチなどの外部操作の有無の事です。
最近問題になっている歩きスマホもこれに類します。
最期に変動の有無とは、凸凹がある地面や液体の入った容器などの比較的予測しにくいイレギュラー要素の有無の事です。
下図は日常で多く見かける動きを、難易度順に並べたものです。

一覧を見ると、確かに平地歩行は実用性が低く感じるでしょ。
屋内だけでなく、屋外の導線も考察しよう。
導線といえば、屋内では寝室⇔トイレ、居室⇔浴室などがありますが、屋外にも存在します。
自宅を起点として、スーパー、職場、銀行、かかりつけ病院など、生活していく上で外せないものばかりです。
それらの導線で何がバリアになっているのかを把握したうえでクリアしていきましょう(下図)。

また、段差とか勾配といった物理的なものだけでなく、クリニックへの導線で必ず通る歩行者用信号が青のうちに渡り切れるか、というスピードの要素もバリアになり得るので、留意してください。
まとめ
いかがでしたか?
一言で歩行訓練といっても単純ではない事が理解できたでしょうか?
ただ歩いていても、いつ不測の事態(物陰から人が飛び出したり、いつもクリアできる段差につまずいてバランスを崩すなど)が発生するか、しれたものではありません。
そのような時にパニックにならず対処できるように、歩行スキルを上げることを心がけましょう。
あなたが考案した治療プログラムには、常に結果が求められるんですから。
❶過負荷の原則を踏まえていないメニューは意味がない
❷『歩く』は『目的』ではなく『手段』である。
❸平地歩行は実用性が最も低い。
❹内の導線だけでなく外の導線も重要。
ここまで読んでいただきありがとうこざいました!!
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