介護ベッドのリクライニング機能に潜む落とし穴。

介護ベッドのリクライニング機能に潜む落とし穴。

私が理学療法士になりたてホヤホヤの頃──

ベッドのリクライニング機能は、大半が手動でした。

 

ベッドの足側にクランク状のハンドルがあり、時計回しで背が上がり、反対回しで下がる仕組みです。

これがまた中々に肉体労働だったりするわけです。

 

そんな苦労も今や昔──

現在ではボタン一つでリクライニング角度や高さを設定できるのがあたりまえになりました。

 

ただ、便利さの一方で、患者がベッド柵に身体の一部を挟まれて重傷を負ったり死亡したりするなどの重大インシデントが起こることも忘れてはいけません。

そういった事例が豊富なリスクの場合、回避することもそれほど困難ではありませんが、知らないことは回避しにくいものです。

 

たとえば、ギャッジアップするだけでベッド上の相手が苦痛を感じていることを、あなたは知っていますか?

 

知らない?

今まで知らなかったのは仕方がありません。

しかし知らないことを放置するのは、ただの怠慢です。

読むのに5分とかかりませんので、ぜひこの機会に知っておいてください。

 

ギャッジアップが患者の身体に与える影響とは?

まず、職場に電動ベッドがある人は、百聞は一見に如かずです。

自分がベッドに横たわり、ギャッジアップしてみましょう。

 

背中の皮膚をずらすような強い力を感じるはずです。

身体全体をおさえつけられるような、非常に強い不快感です。

 

私も何も知らない駆け出しのころは、訓練室から病室へ車いすでお送りした方をベッドに寝かせ、ギャッジアップして「しっかりご飯食べてね」と言い残してそのまま立ち去っていたものです。

体験した方ならわかりますが、苦痛を感じながらでは、ハッキリいってゴハンなんぞ味わえたものではありません。

 

このズレの応力のことを『せん断力といいます。

気をつけなければいけないのは、このせん断力が、最悪の場合褥瘡の原因にもなるんです。

身体をおこした方がリハビリにもなるという善意と行動が、かえって褥瘡を作ってしまうというのは皮肉というしかありません。

 

そんなに不快なら、自分で身体を動かしてラクになればいいじゃん

そう思った方が大多数だと思います。

 

しかし、介護ベッドじたいが、健康な人が使うものじゃないんです。

介護保険でも要介護2以上(食事や排せつなどの基本的な日常動作において部分的な介護が必要)の方でないとレンタルできません。

マヒなどの障害によって身体を自由に動かせない場合、身体を動かしたくても動かせない場合は、周りが手助けする必要があるんです。

 

せん断力発生のメカニズム

ではなぜせん断力が生じるのか?

ざっくりとふた通りの原因があります。

 

なぜせん断力が生まれるのか?

❶ 重力による身体のずれ

❷ ベッドと人体の回転軸のずれ

 

重力による身体のずれ

ベッドをギャッジアップすると、当然上体が起こされます。

起こされた上体は、重力によって下にずり落ちます【下図】

そのずり落ちによって、背部とマットレスの間にせん断力が生じるわけです。

 

これに対しては、ベッドの『脚上げ機能』を使うことによって簡単に防ぐことができます。

 

但し絶対に間違えてはいけないのが、必ず脚上げを行ってから背上げを行わなければならないという点。

最近では脚上げと背上げを全自動でやってくれる、『連動』ボタンがあるので、そちらで操作しても問題ありません。

 

ベッドと人体の回転軸のずれ

次に、見出しの通り、ベッドと人体の回転軸の位置的な差によるせん断力の発生です。

こちらは意外と知られていないので、ぜひとも憶えておいてほしいところ。

ギャッジアップ時の人体の回転軸は、脚の付け根にある股関節です。

ギャッジアップの角度を上げるに従って、せん断力が強くなっていきます【下図】。

 

寝ている人にしてみれば、肩口を下方向に押さえつけられるような感覚です。

この回転軸の差によるせん断力は、ベッドの上に人が寝ている以上、物理的に防止することは不可能なんです。

 

どうすればせん断力を解消できるのか?

やっかいなせん断力をどうすれば防止するか──

前述しましたが、それは不可能です。

 

いやいやいやいや、それじゃここまで読んだ意味ないじゃん!

 

──そんなツッコミが聞こえてきそうですが。。。

私は『防止』はできないといいましたが、『解消』できないとはいっておりませんよ。

あるひと手間を行うだけで、不快感から一瞬で解放され、せん断力による褥瘡の心配もなくなります。

そのひと手間とは──

 

──それは『背抜き』です。

 

背抜きの方法もカンタンです。

ギャッジアップした後で、相手の肩甲骨をマットから浮かせてあげるだけです。

えっ、ホントにそれだけ?

はい、たったそれだけ。

 

ただ心配ごとがひとつだけ。

作業があまりにも単純かつ短時間で済むため、うっかり忘れてしまわないようにする。

 

ギャッジアップだけではなくダウン後も『圧抜き』を!!

ギャッジアップ状態からフラットに下げると、こんどは逆の上向きせん断力が発生します。

当然、そのまま立ち去るなんて論外です。

 

解消する方法は、軽く寝返りをうたせて左右それぞれの肩甲骨と骨盤を浮かせてあげるだけ。

念のために、かかとも浮かせて圧から解放してあげましょう。

圧抜きポイント

まとめ

いかがでしたか。

ビックリするほどカンタンな方法でしょ。

今まで知らなかった人は、今日から実践あるのみです。

もし周りの同僚で知らない人がいたら、すぐにでも教えてあげてください。

 

私としては、一度自分で介護ベッドに寝て体験することを強くおススメします。

どれだけ苦痛なのかがわかりますから──。

ほんのひと手間で、相手を笑顔にできるってステキなことですよね。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました!!

 

 

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