【今日の訪問一景】主婦の矜持。

毎週1回訪問する、私が生まれる前からバリバリの主婦だった利用者さん。
この方はある難病を患っていて、最近では立ち仕事での転倒が目立ってきているため、両手がふさがるゴミ出しや、火を使う調理はできなくなってしまいました。
それでも主婦としてできることはまだあると、笑顔を絶やさないステキな方です。
ある日の訪問で、ふと目の前のテーブルをみると、年季の入っていそうなソーイングセットと衣類が置いてありました。
何をしていたのか訊くと、たまっていた衣類の修繕作業をやっていたとの事。
病気の症状のひとつで手指のこわばりもありますので、手首や指の筋肉のストレッチや指先の作業もリハビリで行っています。
しかし彼女はリハビリ以外の自主トレでも、裁縫作業をされていたのです。
針やハサミを使う作業ですので、さすがにケガを心配しながら作業を見守っていましたが、私の眼にはまったく危なげなく、しかも速いペースでパンツのゴム替えやら袖口のほつれやらが直されていきます。
危険な作業をしているのは彼女も承知の上。安全性を優先して、3割くらいはスピードを落としているとのこと。
どう見ても神がかった速さにしかみえませんが。。。
その手際の良さを絶賛すると、彼女はステキな笑顔をたたえながらひと言。
「私の生きがいを自分で守るためやからねえ。。」
その口調の穏やかさに、私はうっかりその言葉を聞き流しそうになりました。
彼女は人間として安全な生活を送る以前に、主婦としての存在意義を死守するために病気と丁々発止の闘いを繰り広げていたのです。
以前に調理が禁止になった時に、「自分から主婦を取り上げたら、自分が自分でなくなってしまう」と、強い危機感を抱いたかもしれません。
在宅でのセラピストの役割は、安心・安全な日々を担保するだけではありません。
リハビリによって利用者の存在意義を維持することも必要だと思うんです。
それがリハビリへのモチベーションの元ですからね。
私も、彼女の主婦としての【矜持】に敬意を払いながら、彼女が自分の役割を長く維持できるように尽力しようと、自らに誓いました。
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