史上最年少の依頼主。

「先生、ちょっとお願い聞いてくれる?」
この子に何かをお願いされるのは初めてなので、思わず目を上げると、わずかに不安げな色を浮かべながら、どういう言いまわしで依頼したものか、考えあぐねている様子だった。
この子は以前、ある大病を患って学童期の大半を病院で過ごし、在宅復帰してからは私がリハビリを担当している。
今では何不自由なく自転車に乗って遊びに行っているが、当初は自宅の階段を上るだけで酸欠で動けなかったものだ。
「いいよ、どうした?」
言いだしやすくするために、私は声に笑みを含めながら、頼みごとをきく前にあっさりと快諾する。
安心したのか、私の笑みにつられるように愛嬌のある顔をほころばせて口を開く。
そのお願いとは、以前にこの子に見せた私のイラストをご両親が気に入ってくださり、ぜひおじいちゃんの古希の誕生日祝いに贈るイラストを描いて欲しいというものだった。
──俺ってば、どんだけ喜んで見せびらかせてんだよ。
いつ見せびらかせたのか記憶にない私は、思わず自分ツッコミを入れつつも、基本的には自分の特技が人の役に立てるのはいいことなので、早速イラストに入れたい家族の写真を送ってもらうことに。
私の依頼主は日によって顔のむくみが目につくため、自分が最近では最もコンディションのいいものを送らせた。
描いていて誤算だと思ったのは、老人の顔の表現にかなり手こずった点だった。
顔に刻まれた無数の皺(しわ)は、その人の人生の年輪そのものであり、描き方しだいでは、その深みがまったく伝わらないのっぺりとした絵になってしまう。
といって、あまりにも忠実すぎると、なんだか人間ばなれした顔になってしまう。
結果的には非常に喜んでもらえたので満足しているが、もっと老人の顔を練習せねばと強く思った今回のお仕事だった。
──そうそう、今回初めて手書きの文字入れをしたが、書き始めの当初はひどいものだった。
下の絵のできあがりも全然満足していないので、これを機に筆と半紙と墨汁を取り寄せねば──
さもなくば、「祝い」ではなく「呪い」のメッセージになってしまう。

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