理学療法士が語る『サルコペニア』

理学療法士が語る『サルコペニア』

「サルコペニア」

みなさん、このワード聞いたことありますか?

──ない?

まあ無理もないでしょう、恥ずかしながら、私も最近までそんな言葉の存在に気がつきませんでしたからね。

言い訳するわけではありませんが、どなたかお偉い政治家先生の言いかたを借りれば、

──ということになるでしょうか。

実際、これらの言葉は病名ではありません。

じゃあこのサルコペニアは一般的には、

サルコペニア

加齢により筋肉量が減少し、筋力および身体機能の低下をきたすこと。

──Wikipediaより

という定義になります。

よくロコモティブ症候群と混同される事もありますが、ロコモティブ症候群とは「骨・関節・筋肉などの運動器の障害によって移動困難や要介護状態に陥ること」であり、サルコペニアはロコモティブ症候を構成する要素の一つと位置づけられています。

これには栄養状態の悪化や活動量の減少などの身体的虚弱(フレイル)が密接に関わっています。


サルコペニアは高齢者に蔓延している

筋萎縮の進行は矢のごとし

──最初にみなさんに問題です。

ヒトが全く手足の筋肉を使わなかった場合、その筋肉のマックスパワーは1日あたりどれくらい低下すると思いますか?

正解は、2〜5%です。

ということは理論上、ものの3週間も筋肉を全く働かせなければ(通常の生活ではほぼありえませんが)、最大筋力は当初に比べて半減してしまうわけです。

ヤバいスピードじゃないですか?

よくテレビなどでマッチョな人が、

「筋肉は、裏切らない」

って言っていますが、誇張ではなく、あれはまったくの事実です。

鍛えたら鍛えたぶん、怠けたら怠けたぶん、冷徹なほどに筋肉は応えてくれます。

あなたは大丈夫!? サルコペニアの見分け方

でもマッチョかどうかだけならいいんですが、日常の動作に影響をおよぼすとなれば話は別です。

実際に私が訪問リハビリで高齢者に関わっていて思うのは、特に重篤な疾患や後遺症がないにもかかわらず、足腰がたたずに要介護状態になっている方を非常によくみかけます。

──でも筋肉は裏切りません。

機能低下が中程度までであれば、通常は訪問リハビリを始めて1〜2ヶ月ほどで効果が出てきます。

立ち上がりが楽になったり歩くときにふらつかなくなったり、まるで魔法にかかったようだとものすごく喜んでくれます。

われわれセラピストにしてみるとごくごく当たり前の話ですが、そこまで喜んでもらえるとやはり嬉しいですね。

では簡単なサルコペニアの見分け方を伝授します。

指輪っかテスト

両手の親指と人差し指で自分のふくらはぎのもっとも太い部分を囲み、指の輪っかがふくらはぎを回りきらなければ正常。ただしむくみは別。

歩行速度の低下

目安として、10m歩くのに10秒以下であれば正常。

握力の低下

65歳以上で男性で25㎏以上、女性で20㎏以上あれば非サルコペニアと考える。


サルコペニアは寿命を早める危険性あり!

直接的な影響

先ほども述べましたが、サルコペニアは病気ではありません。

しかし何もせず放置しているだけで、確実に進行する病気と認識してください。

高をくくっているうちに気がついてみると、確実に命取りになってしまいます。

何を大げさなと思いましたか?

──大げさではありません。

人間にかかわらず動物は、生存するための必要最低限の筋力というものがあるんです。

少し乱暴ですが、赤ん坊は「先天性サルコペニア」のようなものです。

──赤ん坊も放置されると生きていけませんよね。

高齢者は赤ん坊とちがって知恵がありいろいろな判断もできますが、身体を満足に動かせるだけの筋力が伴わないと、やはり生きてはいけないのです。

間接的な影響

虚弱(フレイル)サイクル

上の図は、いわゆるフレイルサイクルといわれるものですが、この悪循環の要素の中で怖いのは低栄養。

栄養状態の悪化は、サルコペニア以外にさまざまなリスクを引き起こします。

骨量の低下

免疫力の低下

むくみ・褥瘡(床ずれ)

修復力の低下

骨量の低下によって骨折しやすくなり、最悪の場合は寝たきりの原因となります。

免疫力の低下も感染症や肺炎の引き金にもなりかねません。

どちらも命取りになる危険性は低くないわけです。


サルコペニアの対処法

運動療法

サルコペニアへの対処法はまず運動。

運動メニューをここであげていくと長くなるので、またの機会にしたいと思いますが、おすすめのメニューを下にあげておきます。

ロコモ体操

健康長寿ネットより
 

以下の点は必ず守るようにしてください。

 心疾患をはじめ慢性疾患のある方は必ず医師の相談を受ける。

 腰や膝などの痛みがある方も医師の相談を受ける。

 実施中に気分が悪くなったらすぐに中止する。

 根をつめて毎日せず、週に2~3日にする。

 運動負荷は、常に「ややきつい」を心がける

 ❶~❸はもちろんのことですが、❹は効率のよい筋肉の育成(笑)のために、ぜひ守っていただきたいところ。

運動による筋肉の肥大には破壊の後には休息による再生が必要なわけで、「破壊破壊そして破壊」では、筋肉さんにしてみれば、「いつ再生すればいいのよ?」となるわけです。

じれる気持ちをグッとおさえて、1日運動したら1~2日くらいは間をとり、筋肉さんには再生に専念してもらいましょう。

負荷の強さは、無理に数値で決めず、❺のような体感的なもので構いません。

いい加減にみえますが、これはボルグスケールというリハビリやトレーニングの現場でもつかわれている、根拠のある指標です。

この指標を使うことにより、筋力の増強(もしくは減少)に応じてトレーニングの負荷を適切に設定できるという利点があります。

食事療法

運動両方とあわせて必要なのが食事療法。

どれだけ運動で筋肉に刺激を与えても、筋肉を作るための材料がなければ作りようがないわけです。

筋肉を作るのに最も必要なのがたんぱく質です。

たんぱく質を多く含む食品

肉類

魚類

豆類

牛乳、チーズなどの乳製品

肉類は脂肪分の少ない鶏肉が良質といわれています。

後でも述べますが、あまりガッツリと食べる必要はなく、少し意識する程度で良いでしょう。

ただし、逆にタンパク質の摂取が身体に悪影響をおよぼす場合がありますので、次の注意点を必ずお読みください。


食事療法での注意点

臓器への負担

身体そのものを維持するために必要なタンパク質ですが、消化の過程でアンモニアという有害な物質になります。

これを肝臓で無害化し、腎臓でろ過して尿に排出するわけですが、この過程でこれらの臓器に負担がかかります。

健康な人であれば問題ありませんが、肝硬変や腎炎などで肝機能や腎機能が低下している方は、かならず医師と相談してください。

メタボの危険性

過ぎたるは及ばざるがごとし──。

なんでもそうですが、やりすぎはよくないです。

タンパク質もしかり──。

単純明快に、余ったタンパク質はエネルギーとして蓄えられることとなります。

まあ脂肪ですね。

ちなみにどれくらいの熱量かというと──

1gあたり4kcal

実はこれ、炭水化物と同じ数値なんです。けっこうすごいカロリー。

やみくもに取っていると、サルコペニアが解消される以前にメタボリックシンドロームになってしまいます。

では厚生労働省が推奨する、70歳以上のタンパク質摂取量は──

男性 60g/日

女性 50g/日

──とされています。

では食品100gあたりに含まれるタンパク質の量を以下に挙げていきましょう。

肉類・魚類20g前後
ごま・アーモンド20g前後
カップ麺10g
スパゲティ(乾麺)13g
豆腐5g前後
納豆16.5g
するめ69.2g
プロセスチーズ22.7

ほんの一部ですが、これだけでも食品にはタンパク質がけっこう含まれているとわかります。

加工品などは含有量が書かれていますので、参考にするといいでしょう。

あと効率重視でもダメ。

タンパク質以外の栄養のバランスも考えましょう。


まとめ

──いかがでしたか?

そもそもサルコペニアに対応することで、どんないいことがあるんでしょうか。

サルコペニアを予防するメリット

 生活の自立

 認知症の防止

 社会参加が促進

 QOL(人生の質)の向上

 健康寿命の延長

 介護・医療の予算削減

これから日本の超高齢化は避けられないにしても、活気と生きがいにみちた社会の方がいいですよね。

そのために各自がいつまでも健康でいることが肝心です。

サルコペニアへのケアや予防の方法はそれほど難しいことではありませんので、あなたのまわりにサルコペニアが疑われる方がいたら、ここで読んだことを教えてあげてください。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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